自分の中に
「2つの部門」を持とう

小説家の羽田圭介さんは、大学卒業後に会社員を経て専業作家になった。お金について真剣に考え始めたのは、実家を出て一人暮らしを始めた頃だ。

「専業作家になってしばらく経った時に、お金への不安が出てきました。小説家というのは、文芸誌に書く原稿料と本になったときの印税で食べているんですが、単行本の定価が1500円で一万部だけしか刷られなかった場合、1年ちょっとかけて書いた本の印税が150万円で原稿料と合わせても年収は280~450万円。このままではキツイなと」

そこで投資に興味を持った。最初にトライしたのは、個人型確定拠出年金(iDeCo(イデコ))だ。掛金が全額所得控除になり、運用益が非課税になるといった税制上のメリットがある。しかし、掛金の上限が月6万8千円と小さく※、原則として60歳までは払い出せないことから、羽田さんは投資信託への投資もはじめることにした。

最初は日本の上場投資信託(ETF)や個別の株式を購入していたが、だんだんと米国株式に集中するように。昼間の時間は小説を執筆し、夜中に米国株の値動きを月に数度の頻度でチェックする、その方が自分のライフスタイルに合っていたからだ。

その後、2015年に芥川賞を受賞し、大金を手にすることになる。その時、既にお金や証券投資に対する価値観ができ上がっていた羽田さんは、その使い方について惑うことがなかった。
「この時、貧乏な頃から株をやっていてよかったなと思いました。投資って若いうちから時間を割いていてもしょうがない。株は調査に費やす時間もかかるし、投資額が少なければリターンも少ない。だったら本業をやって働いて稼いだ方がいい。自分のライフスタイルを考えた上で、手間暇をかけない資産運用の方法というのを構築した方がいいと思う。
2つの異なる「部門」を持っておくことが大切で、自分の場合は、(本業の)小説の執筆と、(効率よく稼ぐことができる部門として)テレビや講演会に出演することで稼いでいる。
最近はYouTubeで自分の小説の朗読した動画を公開しはじめた。これは、本にあまり馴染みがない中高生にも自分の本を手に取ってもらうきっかけ作りのために始めたのだが、正直とてもお金と時間がかかるので、赤字になっている。
それでも、本を読んでくれる人が増えるかもしれないなと思っているので、続けている。
自分の中に黒字部門を作り、投資もしているからこそ、金銭的な余裕ができ、採算が合わないことでも続けられるし、その中から得たアイディアを小説に生かすことができている。
大事なのは“お金”ではなくて“時間”。小説の執筆は時間がかかるので、どうせ書くんなら書きたいことだけを書きたい。自分がやりたいことをする時間を買うために、資産運用で安心を得るのが大事なんだと思います」

※加入できる確定拠出年金の型や掛金限度額は、国民年金の被保険者の種別や、勤務先の企業年金の実施状況などによって異なります。
講師プロフィール
羽田 圭介
小説家。1985年東京都生まれ。高校在学中の2003年、「黒冷水」で第40回文藝賞受賞。2015年、「スクラップ・アンド・ビルド」で第153回芥川賞受賞。
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