さて今日からどうやって
お金を使おうか。

朝から晩までさまざまな形でお金を使う、私たちの毎日の暮らし。日々のお金は何にどうやって使うのが、スマートな現代のやり方なんだろう?
ニューヨーク在住のライター・佐久間裕美子さんの話にヒントを探します。

1996年から20年以上ニューヨークを拠点に活躍するライターの佐久間裕美子さん。周囲の生活、そして生活にまつわるお金の使い方が一変したのは、2008年のことだと振り返る。
「それまではどこもかしこもゴージャスできらびやかでちょっと居心地が悪いくらい(笑)。それが2008年のリーマン・ショックを境にガラリと変わりました。人々が地に足を着け、生活を考え直すようになったという実感があります。以来、特に私の住むブルックリンでは"インディペンデントであること”“ハンドクラフト”“コミュニティ性”がキーワードとなりました」

その一例として佐久間さんが挙げるのが、2011年にスタートしたフードマーケット『スモーガスバーグ』だ。地元の人気レストランやカフェなどが出店するイベントで、現在はブルックリンで毎週末開催しているほか、LAなどのアメリカの他都市に加え、大阪でも開催されるなど広がりを見せているが、そもそもは、個人経営(インディペンデント)の食の担い手と消費者とが直接繋がる機会だったという。

「ブルックリンのそういうスタイルは瞬く間に定着し、今度はそれが流行になってくる。そうすると何が起きるか。ジェントリフィケーション(高級化)ですね。実際、ブルックリンの家賃は上がり、小さな店が生き残るには過酷な状況になってきました」
その結果、家賃や物価の安い、より暮らしやすい場所を求めてクリエイティブな層の移動が起きていると佐久間さんは話す。
「いわゆる“ヒップな”人々ほど、自分のお金をどう使うべきかにシビアなのだと思います。移動先として多いのが、ロサンジェルスのシルバーレイクエリア、またマンハッタンから1.5時間ほど北上したハドソンバレーの辺り。また中西部のデトロイトもその一つです」

フォード社の創業地であり、アメリカの自動車産業の中心地として栄華を誇ったデトロイト。1950年には人口180万人を超えたが、自動車業界の不振が続いて1/3近くまで減少。2013年には街が財政破綻を起こしてしまう。自治体の機能しないデトロイトは惨憺たる状況に陥った。中心部では廃墟が激増、郊外に住む車のない貧しい層の日常の足であった公共のバスもストップ、ごみ収集も来ない……。治安は劇的に悪化した。佐久間さんはこの街に、年に数回のペースで通い続けているという。

「財政破綻当初は、身の回りにもかなり気をつけて歩かないと怖いような全くのゴーストタウン。でも財政破綻が生んだチャンスもあった。アーティストたちが差し押さえ物件を安価に購入して創作活動を始めたり、クリエイティブな発想のスタートアップが現れ始めたんです」
民間バス会社『ザ・デトロイト・バス・カンパニー』、廃屋となっていた巨大な倉庫をリノベーションして、スタートアップにワークスペースを提供する非営利のコワーキングスペース『ポニーライド』など、街を変える動きが後を絶たないそう。

「つい最近、廃墟となっていたミシガン・セントラル駅をフォード社が買い取って研究センターとして生まれ変わらせるというニュースが発表されたばかり。地元は大いに湧いています。少しずつ街が変わっていくのが心から喜ばしい反面、注目を集め始めて家賃が上がったというような声も聞きます」

長年にわたり、アメリカの各地で生活、社会、経済の変化を体感してきた佐久間さん。自分に消費者として何ができるかを考えて生活していきたいと話す。
「では自分が経済に何ができるかと考えたところで、とてつもなく大きな動きができるわけではない。でも、買うこと、投資をすることは、その商品や企業に対する自分からの一票であることは忘れずにいたいです。たとえばコーヒー一杯を買うとする。近くに大資本のフランチャイズ店があるとしても、私は少し歩いて個人経営の店で買うことを選びたい。なぜなら、ニューヨークのフードマーケットの例でも話したように、出どころがクリアで、かつローカルなものに私は賛同するから。自分が使うお金は誰の手に渡るのか、そこを意識していれば、自ずとどこに投資や消費したいかは見えてくるように思います。もちろん、大資本の企業によるものを全く買わないということは無理ですが、お金を使うことは自分の意見の表明だと考えられる消費者でありたいですね」
講師プロフィール
佐久間 裕美子(さくま ゆみこ)
ライター。1996年に渡米し、98年からニューヨーク在住。出版社、通信社などを経て2003年に独立。政治家、ミュージシャン、作家、アーティストなど、幅広いジャンルの著名人・クリエーターにインタビューしてきた。著書に『ピンヒールははかない』(幻冬舎)、『ヒップな生活革命』(朝日出版社)など。
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